AK note

ビデオゲームの考究と企画についてのヒント

泥だんごコースター

子供の頃のお話。

向いの家に住む3歳年上のタカシくんが、泥だんごを作るのに最高の土が取れる場所を見つけたと、庭で忙しく水を撒いていたぼくの背中にくっつくようにして話しかけてきました。

泥だんごは手のひらに乗るくらいの大きさに土を固めて綺麗な球体状にして鑑賞する遊びで、やっていることは幼児の砂遊びと変わらないけれど、丁寧に時間をかけて磨き上げると金属のような美しい光沢が現れてきます。小学校の低学年の頃に流行り、みんな手を泥だらけにしながら綺麗な玉を競うように作っていました。

以前公園でタカシくんが作っていた泥だんごがあまりにも綺麗だったので、作り方を教えてもらってそれから最近タカシくんとは泥だんごの話ばかりしています。タカシくんの泥だんごは硬くて丈夫でそして誰よりも光沢があって輝いています。

 

家の近くに大きな川があり両岸にそれぞれ二段の河川敷が広がっていて、草原のような青草の広場ではキャッチボールをしていたり、細かく仕切られた家庭菜園の区域では割烹着にゴルフのキャディ帽を着けたおばさんらが黙々と作業をしています。

「絶対に秘密だからな!」タカシくんは少し怒ったような顔で家庭菜園の横を抜けて背の高い草むらの中に入って行きました。小学3年生くらいだったぼくはまだ背が低く、雑草に埋まりながらなんとか見えているタカシくんの後頭部を追いかけて行きました。

草をかき分けて進んでいると急に視界が開けました。そこは川の流れのすぐ側の河原でした。河原は真っ白な砂が広がっていて海岸のように数十メートルほど続いていました。タカシくんが誰にも分からない秘密のところだと言っていた通り、確かに河川敷のその下の川底が干上がったこの場所は背の高い雑草群の茂みに隠れていて堤防からは見えませんでした。

タカシくんは少し靴の先で地面を掘って土の具合を確かめました。見ると上はさらさらで掘った所はかなりねばっこい粘土層の土が出てきます。

「この土を絞って芯にするんだ」

タカシくんは持って来た紙袋から薄い雑巾のような汚れた布で覆われた泥だんごを取り出して見せてくれました。

ここの土で作ったという泥だんごは白い砂が灰色に変わり、それに光沢が加わって銀色に輝いていました。タカシくんはそれにこの河原の砂をかけながら「まだまだ」と言って器用に指先で表面を擦っていきます。

早速ぼくも底の方の土をかき出してぎゅっぎゅっと水分を絞り出すように硬く握りながら球体を作っていきました。やっぱり公園の砂に水をかけたものよりも具合は良いようです。

そろそろ少し固まってきたので乾いた砂をかけようと泥だんごを持ち替えたその時、手を滑らせて落としてしまいました。泥だんごは幸い割れずに今掘り起こして出来た地面の溝に転がりました。

無造作に掘り起こして道のようになっていた粘土質の溝は、真っ直ぐに、そして曲がりくねって、まるで泥だんご専用コースのようになっていて、そこに沿って上手く転がって行きました。

泥だんごはしばらくころころと溝に沿って転がって大きな穴になった所に落ちて止まりました。……?!「おもしろい!」

タカシくんにも同じようにして見せると泥だんごの手を止めて溝を眺めたあと「はっは!」っと声をあげて笑いました。どうやらぼくの考えていることと同じことを思いついたようです。……

 

それから2人は泥だんごの制作を中断して本格的に泥だんごを転がして遊ぶ専用コースを作り始めました。なんだかだんごを作っている時よりも面白くなってきて、いろんなアイデアを出し合いながらコースを増やしていきました。

最初はロードレースのコースのようにしていましたがスピードがつきすぎるとだんごが割れてしまうということでカーブを多く取り入れたくねくねコースになりました。タカシくんはもっと大胆にトンネルを作ったり勢いぎりぎりに登って降りる山なりの連続する坂道などを作っていきました。

河原の土は掘れば掘るほど良質な粘土で、しかも乾くと頑丈に固まって少しの衝撃では崩れることはありませんでした。タカシくんはその上から泥だんごを作る要領で乾いた砂をかけて擦りました。すると滑らかな光沢が出てきて真っ白に輝き始めました。

さほど広くない範囲にコースが入り組んでいてとてもコンパクトにステージが完成しました。トンネルやバンクカーブ、山なりの凸凹レーンなどがひしめき合っているように作られていて、そこに泥だんごが転がっていくのを想像するだけでワクワクします。それになんだかテレビで見た地中海地方の白い街並みのように土の風合いが綺麗です。

タカシくんが上方のスタート地点からさっき急遽作ったコース専用の泥だんごを転がしました。だんごはゆっくりと順調に転がって中盤の入り組んだコースに入ってきました。しかし、しばらくくねくねが続いたあとトンネルに差しかかる手前でだんごは崩れてしまいました。やはり完全に乾燥していないので耐久力が無いようです。

タカシくんは少し考え、今日持って来たあの大切にしている銀に輝く泥だんごを出してきました。ぼくは少し心配になってタカシくんの顔をうかがうと、笑って「これなら大丈夫だろ」と陽に掲げて光らせました。

躊躇無くスタート地点から放たれた銀色のだんごはさっきのだんごよりもスピードが速くてカーブもコースから飛び出しそうになりながら転がりました。ぼくはそのタカシくんの大事な銀色のだんごが絶対に割れないよう心の中で祈りました。

それでも全くぶれることなくトンネルに突入! 無事に抜け出すと、もう随分傾いたオレンジ色の夕陽を受けてキラっと輝きました。銀色のだんごはその後も割れることはありませんでした。2人は思いがけないゲームを発見して、楽しくて楽しくていつまでもだんごを転がしていました。……

 

あの時タカシくんは大切にしていた銀色の泥だんごを嫌な顔もせず提供してくれました。真っ白に磨かれ豪華で重厚に作られたコースを、美しく丹念に磨き上げられた銀色の泥だんごが見事に駆け抜けたあの瞬間! ぼくたちの『泥だんごコースター』は本当の意味で完成したのだと思いました。

そうしていつしか傷がつき光沢も無くなってしまった大勇の銀玉に、タカシくんの優しい心根をみたように感じたのでした。

 

*blog "games be" 2014年記事の再録