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AK note

ビデオゲームの考究と企画についてのヒント

テニスゲーム

子供の頃のお話。

家族でデパートへ買い物に行った時や食事をしたときなどには必ず屋上のゲームコーナーに寄ってもらって遊んでいました。まだデジタルゲームは少なくアナログなドライブゲームやコインで遊ぶルーレットゲームなどが沢山ありました。

お気に入りは『ウィンドミル(wind mill)』といって、縦型筐体で風車のような羽が4つ自動回転している見た目にも楽しそうなゲームでした。ルールはその風車を縫うように通っているレールに沿ってパチンコ玉くらいの銀玉を移動させ、回転している風車の隙間に入らないようにゴールまで運ぶというものです。ぼくはそれが妙に得意で必ずといっていいほど景品を出していました。

 

ある日下校途中にあるショッピングセンターの入口付近に子供たちが群がっていました。近づいてみると家庭用のブラウン管テレビの黒い画面になにやら白い縦線が中央に映っていて、画面の両端にこれも白い短い棒が映っていてそれらが上下に動いていました。

そしてどうやらテレビの前にいる子供が手元にあるボードのレバーでその動く棒を操作しているようです。画面には白い球(ドット)が左右に移動していて、操作してる棒でその球を弾き返しています。球は画面の端で反射して角度を変える、いわゆる衝突運動を繰り返しています。遊んでいるテレビの上に「テレビテニス大会」という文字が大きくポップに描かれています。

白黒の画面に線が移動しているだけのモノでしたが、ゲームセンターにあるテーブルゲームのように普通のテレビでゲームが出来ることに驚きました。どうやら家庭用テレビゲーム機の発売イベントのようです。そしてもっと驚いたのが優勝商品です。テニスゲームに勝ち残った人には「顕微鏡」をプレゼント!とあります。

 

昆虫採集がブームだった当時、その延長線上にあった子供用の高価なツールはさすがに毎月の小遣いでは買えるものではありませんでした。

顕微鏡。いま流行の……。お父さんに何度も「ほしいほしいほしい」と言っているあの顕微鏡……。「オモチャじゃないからいいでしょぉー。買ってよぉー!」と言ってオモチャ屋の前で粘ったあの顕微鏡……。

ぼくはとりあえず家に帰り、もの凄い素早さで家の用事を済ませて再びショッピングセンターにやってきました。子供たちは少し減ったもののイベントはまだ続いていました。今まさにゲームの勝敗が決まり次の対戦者を募っているようです。

テレビの横でマイクを持ったお兄さんがぼくを見つけて「やってみる?」と一言。「えー…」なんて恥ずかしそうに前に出たぼくは、その前に遊んでいた子供の手元を観察していたので遊び方はほぼ理解していましたが、ちょっと判らない感じでお兄さんに操作方法を教えてもらったりしました。

「スタートー!」の合図でゲーム機のボタンをお兄さんが押すと球が飛び出してきました。画面外に球を逸らさないように白い棒(ラケット)に当てて相手側に弾き返すだけのようです。

 

……この感覚、じっくりタイミングをはかって、球の飛んで来る角度を予測してそこに棒を移動させる。何かに似てる、何かに似てる。そうだ!あの風車のゲームだ!

デパートの屋上にあるアナログのゲームは殆どがコインを弾いて目的の穴に入れるものが多く、それらは自分のタイミングで力加減を調整するゲームなのに対し、あの風車のゲームは相手側の羽の回転にタイミングを合わせてコントロールする遊びなので、同じような見た目でも全く反対の発想で出来ているゲームなんです。

一度もミスすることなく、何人もの相手を、面白みもなく、はらはらもせず、黙々と打ち負かしていくぼくを、突然実況していたお兄さんが制止しながら「優勝!」と叫びました。気がつけば周りで見ている殆どの子供を負かしていました。

 

夕方食事を終えたあとお母さんに優勝商品の顕微鏡を見せて今日の顛末を話すと、急に顔が強ばりはじめて「本当に優勝したの?」と聞き返されました。どうやら悪いことをしたのではと疑っているようです。

ショッピングセンターには食料品なども売っていて毎日のように利用しているけれども、そんなイベントがあったことなど知らないお母さんは心配になったみたいでした。とりあえず明日行ってお礼を言わないといけないからと、ぼくも一緒に行くように言われました。

「そうです。この子です。白い帽子の…。もの凄くゲームが上手くてびっくりしました」

昨日イベントを仕切っていたお兄さんが話している前で、お母さんはほっとした様子で頭を下げていました。

それから数日後、出張から帰ってきたお父さんがぼくの誕生日にと顕微鏡を買って来てくれました。

 

*blog "games be" 2014年記事の加筆・修正