AK note

ビデオゲームの考究と企画についてのヒント

ユーザーの声の中に隠された本当の意味を見出すことこそプロの仕事

近年ゲーム業界は、数年に一度現れるヒット商品を先頭にして、その後方から同じような遊び(システム)を使った他の商品が追従しているという印象があります。

ユーザーとしてはさまざまなジャンルから選択したいと思う一方、制作側は景気の動向により売り上げの安定やリスク回避の観点から、このような構造を受け入れざるを得ない状況になっているのではないでしょうか。こうした傾向はゲームだけではなく他の業界でも言われているようですが、いよいよその構造自体も揺らぎ始めているようで、数年と言われていたヒット商品の出現はもはや十数年に一度と言う状況になりつつあります。

 

その上デジタルゲームは経験や体感的な感覚で仕上がりの善し悪しを判断しなければならない非常に難しい商品で、外見のクオリティーや動作性能だけではユーザーの心をとらえられるかどうか判りません。

商品の質を保ち安定的に製造出来るようになったとしても面白くなければ全く意味のないものになってしまうのがゲーム制作の怖さで、しかし個々に作られたゲームはそれぞれ共有する部品があるわけでもなく、小分けして小額で売るわけにもいかないのでリスクマネジメントという視点からもなかなか良い策が見出せないのが現状です。

 

最近『ユーザー本位』という考え方がモノ作りの基本姿勢に上げられ、ゲーム業界のみならず「利用者の意見を取り入れて商品開発する」という流れをよく耳にします。聞こえは良いのですが、やはり新商品のアイデアが枯渇していたり、企画に策がなかったり、売れる商品が見えないといった状況を打開する手段として取り入れられた印象があって私はあまり良いイメージはありません。

確かに商品はユーザーのために考え、満足してもらうために作るわけですが、その過程においてユーザーの要望や遊びのアイデアなどが商品企画の範疇にまで及ぶことになると、本来プロとして一番能力を発揮しなければならないシステム部分を制作経験のない素人の目についたその場の考察に託すことになるわけで、どうも企画者としては無責任に感じてしまいます。

 

ユーザーの声は市場の現状を知る重要な材料の一つには違いありませんが、その活用方法にはやはり開発者のセンスやテクニックが必要です。またユーザーが制作者に求めるものが具体的な事柄であったとしても、果たしてそのまま受け取るものかどうかも慎重に精査しなければなりません。

例えば「アクションゲームのプレイヤーキャラクターの走るスピードが遅くてイライラするから速くしてほしい」という声があった場合、それに対応してそのまま移動速度を上げるのではなく、なぜ移動速度が遅いと感じるのかをまず考えなければなりません。問題は1つでも、そこに至る理由は必ず複数存在します。

 

1)走行移動しているだけなのにステージが複雑で到達するのに時間がかかる

2)敵が頻繁に移動ライン上に出現するのでいちいち足止めされてしまう

3)派手な走行アニメパターンに対して移動速度が合ってないので疾走感がない

 

1)走行移動しているだけなのにステージが複雑で到達するのに時間がかかる

 

敵もまばらで他に目的もなく移動するだけの範囲と、沢山の敵が出現していてそこを上手く攻撃しながら抜けていく範囲とではプレイ感覚が違います。プレイヤーの速度を速くしてしまうと敵との間合いやタイミングが全て変わって難度が上がってしまう可能性があります。

 

この場合移動がメインになる範囲を縮小するか、あるいは簡単なイベントで印象を変える必要があります。

 

2)敵が頻繁に移動ライン上に出現するのでいちいち足止めされてしまう

 

全てのステージに、共通する雑魚敵が常に出てくるようなスタイルのアクションゲームではこういう感覚になることがあります。これはゲームの核となるシステム部分なので全体を見渡すような思索が必要です。

 

ユーザー感覚の捉え方としては「速度が遅い」ではなく「面白くない」から移動でイライラしてしまうと考える方が真意に近いと思います。要するにゲームシステム自体を否定されている訳ですから、根本的な遊びの部分を考え直すことから始めるべきです。

 

3)派手な走行アニメパターンに対して移動速度が合ってないので疾走感がない

 

速度を上げてアニメーションのイメージに合わせることでゲームバランスが変化してしまうようなら、アニメーションパターンを変更した方が良いでしょう。

 

一度仕上げてしまったプレイヤーキャラクターを最初から作り直すのは大変なことです。しかし現在ではモデリングとアニメーションが別々に作業出来るので、アニメーションの変更は昔ほどの労力ではないかもしれませんが。

 

……  理由はいろいろ考えられます。いずれもプレイヤーの速度を上げるだけで見た目は解決するかもしれませんが、安易に速くするとプレイ感覚が希薄になったり、アイテム取得率が下がってしまったり、小さな子どもが速度についていけなくなったりというようにゲームシステムの根幹に影響を及ぼしてしまう可能性もあります。

 

ユーザーの声から本当の問題点を見つけ出し、遊びを変えずに修正することは決して簡単なことではありません。またどんなに多くの声であってもそれとは逆の声も必ず存在するわけで、どちらにしても偏った変更を迫られることになります。

ユーザーの使用感覚に違和感があってもなぜそう思うのかということは声の中には書かれていません。もしかすると全く正反対の感想でも問題の原因は同じ所だったということもあり得るのです。

制作者はそういうユーザーの声にある問題点の核心部分を見つけ出して対処しなければならないわけで、それこそが経験と技術を持ったプロの仕事であり責任だと思うのです。

 

*blog "games be" 2014年記事の再録